体育大会を翌日に控えた職員室。
見慣れぬ段ボールの箱が机の上にありました。
何が入っているのだろうと開けようとすると、慌てて職員が別の場所に移動させました。
「校長先生には、関係ないですから」
その言葉も、挙動も不自然です。
というか怪しい。
明日の生徒会企画のプログラムで使う飾りか何かで当日のお楽しみだろうなと私は深く追求しませんでした。
段ボールの中身
さて、体育大会当日。
職員室で朝の挨拶をすると、若い教員が近寄ってきて
「校長先生、お願いがあります。このシャツを着てください。」
とスタッフシャツを渡されました。
昨日の怪しい動きは、このことだったのかと思い
「ありがとう。もちろん着るよ。」
と答えて、シャツのデザインを見ると、何と大きく私がアニメ化され、教頭や教務の二人も登場したものでした。
立派なアメリカンアニメですが、何とも恥ずかしいデザインです。
学校の校長や管理職がデザインされたシャツなど、若い私でも思いもよらなかったでしょう。
というか、その発想を否定したかもしれません。
- 「なぜ、校長をデザインしたものを着るのか?」
- 「主役は生徒であり、スタッフだろ?」
- 「バカ殿だろ!これでは裸の王様だ。」
と思ったはずです。
現実、今の私にも、そういう一瞬の戸惑いがありました。
しかし、それ以上に、胸が熱くなる嬉しさがあったのです。
シャツのデザインしてくれたのは、本校の教員です。
このシャツのデザインがどんな形で依頼され、実現していったのかを考えると感謝しかありませんでした。
- 6月に見つかったステージ3の鼻腔癌で学校を留守にして入院した日々
- 何とか免疫力を高めようと食事や運動も気をつけた日々
- 陽子線の影響で、口の中は大きな口内炎、鼻は火傷状態のあの日
- ネットで検索して、ステージ3の生存率や回復の道筋を調べた日々
- そして、再入院。
退院後も実は眠れない日々が続き、職員の前では虚勢を張っていたのですが、どうやらその虚勢は職員に看破られたいたのです。
多分、職員だって、退職前の私の顔がプリントされたシャツなど「?」と思ったでしょう。
しかし、私は励まされた気がしたのです。
待っててくれた職員の優しさが伝わったのです。
復帰後も、自分なりには頑張っていますが、相変わらず眠れない日も多く、退職のゴールテープが遠く感じることも多いのが正直なところ。
「頑張ろう」とギアを上げることができるシャツだと嬉しくなりました。
そういう思いをもって感謝を告げたところ、多くの職員が上着を取りました。
なんと彼らの多くも、同じシャツを着ているではありませんか。
そして、事務室でも同じ光景が。
「思い」は見えないけれど「思いやり」は見える。
「心」は見えないけれど「心遣い」は見えます。
体育大会では、そのシャツを着た先生方が会場で活躍しました。
先生方の仲が良いのが伝わると生徒も安心するみたいです。
そんな感想を生徒からももらいました。
ありがたいことです。
今日はここまでにします。
次回をお楽しみに。
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