「やればできる。」
言うことは簡単ですが、これはとても難しいことです。
19世紀のフランスの心理学者ビネーは、学力を「意欲」「読解力」「論理的思考力」の三つだと証明しました。
言い換えれば、やる気と国語力、数理的な力です。
これが、本当なら、
「うちの子は、やればできる子だ。本当は力がある。」
というのは、完全な間違いです。
ビネー的な考え方では、学力の三要素の2つはあるが、1つはない子です。
私は、この考え方の一部には賛同しますが、全面的に支持はしていません。
なぜなら、読解力や論理的思考力はいくらでも鍛えられるのだから、意欲をあげるアプローチがあると思っているからです。
他者の介入とモチベーション
次の4つの表をご覧ください。
勉強のやる気があるかどうかと、親が介入するかどうかを表したものです。
タイプ | 子供のやる気 | 親の介入 | 子どもの学力の伸びの順位 |
A | ◎ | ◎ | 2 |
B | ◎ | ▲ | 1 |
C | ▲ | ◎ | 4 |
D | ▲ | ▲ | 3 |
1番学力が伸びるのは、親に言われなくても自分でやることのできるBタイプ。
2番目に学力が伸びるのは、親がよく介入して、子どもも自分でやるAタイプ。
残念なのが、子どもはやる気がないけど親が教育熱心で介入するCタイプです。
子供も親もやる気がないDタイプよりも下降します。
誰しも経験があると思いますが、親に勉強をしろと言われて、やる気スイッチがOFFになるのが普通の反応です。
悲しいことに親が言えば言うほど、やる気がなくなります。
自分でスイッチを入れるタイミングを迷っている子に、親が強く介入すれば、
「今から、しようと思っていたのに。」
と反応するのが常だと思います。
これは、大人の仕事のスイッチも同じだと、思っています。
では、介入ではなく褒美ならどうでしょうか?
褒美とモチベーション
TEDでの再生回数が多いダニエル・ピンクのモチベーションの考え方に、私は共感しています。
彼は、モチベーションを3段階で考えていて、
第1段階のモチベーションを、食欲、睡眠欲、制欲を含めた原始的なもの。
第2段階のモチベーションを、インセンティブに紐(ひも)付けされたものとしています。
このモチベーションは、人よりも速く石炭を運ぶとか、多くの面積の耕すとといったことで報酬が発生し、それをやる気にするやり方です。
このやり方は、思考は問われません。
やるべき方法と答えが決まっているルーティンワークで成り立ちます。
しかしこの方法では、クリエイティブなことは期待できません。
TEDの中でも、褒美をちらつかせた後に、難しい問題を解かせた時のことを説明していますが、答えに結びついていませんでした。
褒美、つまり外発的動機では、これからの時代に大きな成果は期待できそうにありません。
例えば、「今後の試験で、〜だったら、〜を買ってあげる。」と言った方法では、すぐに限界が来ます。
これは会社でも同じで、褒賞だけでは人は動きません。
現に、残業ばっかりで年収900万円と残業なしで年収400万円の仕事を若者に選ばせた時、意外に後者が多いことでも分かります。
しかも、褒美でモチベーションを上げる方法では、他人の成功を喜ばなかったり、自分のミスを隠そうとしたりする危険性も出てきます。
テストの結果を親に知らせない生徒と同じです。
となれば、やるべきことで縛ってしまわずに、自由な発想を生かすことを許される環境が必要です。
これは、心理的安全性が確保された環境とも言えます。
随分前に見た記事ですが、こんな話がありました。
昔、全米大学生新聞コンクルールで、全米1位になった新聞部がいました。
喜んだ学長は、予算や褒美を大きくして新聞部に働きかけ、2年連続全米1位になりました。
ところが、財政的事情で次の年の新聞部の予算は大きく減らされてしまいました。
結果、全くレベルの低い新聞しか出来上がらない悲惨な結果になってしまいました。
つまり、もともと楽しくてたまらなかった新聞制作が、褒美のための新聞制作になり、褒美がなければ大した取材もしない新聞制作に成り下がってしまったのです。
理想的な内的動機から、褒美を意識した外敵動機になってしまったからです。
この内なる動機は、「情熱」がとても大切です。
難しいけれども、その情熱を信じて、任せて、認めること。
私は、いつもそこが十分ではありません。
改善したいと思っています。
今回はここまでににします。
続きはまた次回。
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