PTA総会で、私の想いを伝えるために紹介したエピソード。
校長が何に涙を流し、何に感動しているかが分かれば、下手な話より伝わるものがあるはずです。
「本日は、お忙しい中・・・・」
の挨拶では、時間が過ぎるのを待ちたくなりますから。
教員をやっていれば、どんなドラマよりもリアルで一生残るシーンがあります。
その感動を伝えるのも、大きな責任ではないかと思っています。
ということで、エピソード2を紹介します。
9人の戦士
30年も前の話です。
私は、山間へき地の小さな学校の教員でした。
地域に大切にされ、期待されて、教師と親の関係がとても近い学校でした。
何しろ、学校そばの家に帰ってしばらくすると、地域の中学生が私の家に英語や数学を習いに来るのです。
教えたことのない子までです。
しかし、どの子も素直でよい子たちでした。
勉強が一通り終わると、お母さんが迎えに来て、野菜などをお礼にくれました。
しかし、お父さんが迎えに来ると大変。
そのままお酒に発展し、お母さんを呼んで先に子どもを家に帰し、再びお父さんを迎えに来てもらわないといけなくなったからです。
当時は、自分の時間がなくなり大変でしたが、今考えると、ともに時間を過ごすことは意味があった思えます。
さて、そんな山の小学校にも、ソフトボールのチームがありました。
4、5、6年生が、それぞれ3名ずつ9名のチームです。
とはいっても、これがその学校の4年生以上の全員です。
ひとりでも欠けたら、3年生を入れないとチームとして成立しない、本当にギリギリのチームでした。
9名の中には、もちろん運動が苦手な女の子もいました。
大会出場
山の冬は寒い。
谷を吹き抜ける風は、身を切ります。
そんな中、ノックをしてボールを取らせるのですが、グローブの芯でとらないと手が痺れます。
苦手な女の子の手は赤くなり、目には涙も浮かびました。
そんな練習を毎日繰り返し、町の大会に出場しました。
他校は、6年生の男の子だけで編成されたチームです。
試合前に整列した姿を見ると、あまりの体格差にはじめから圧倒される感じです。
我がチームの戦術はとにかく守り。
6年生のMが毎日懸命に努力して、豪速球を身につけたので、アウトは三振か内野ゴロでかせぐのです。
攻めは打順が少ない6年生に回ってきた時がチャンスで、あとの子は、ボールがキャッチャーミットに収まってから振るくらいのレベルでした。
とにかく1点とって守って勝つしかありませんでした。
毎年負け続け、相手からも声援を受けるチームでしたが、その年は違っていました。
相手チームのスコアボードには「0」が続いたからです。
互いの緊張が高まります。
もしかしたら、相手の方が緊張していたかもしれません。
弱小チームに負けるわけにはいかないでしょうから。
しかし、我がチームは耐え切って町の大会を勝ち抜きました。
皆で大喜びです。
しかも、続く近隣3町との大会も勝ち抜いて準優勝となり、県大会への出場を決めたのです。
県大会の会場は、車で2時間の場所。
町に準備してもらったバスで試合会場近くの宿舎に前日入りをしました。
小さな学校の子供達が、努力してたどり着いた県大会ですから、感慨もひとしおです。
私の中にも、出られただけでも見事なものだという気持ちもありました。
しかし、子供達の成長は、そんなものではなかったのです。
私の生涯に残るシーンがこの後に訪れました。
今回は、ここまでにします。
次回をお楽しみに。
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