心ない言葉で人を傷つけたり、嘘を付いたりと、SNSの世界では、匿名性をいいことに根拠のない呟きが社会に大きな影響を与えています。
しかし、自分の名前を正々堂々と出さなければならいというルールは、受信先が不特定多数の現状では、場合によってはバズってしまいます。
時には、社会的な立場さえ危うくなることを覚悟しなければなりません。
この匿名性は、発信した側を守ることはできますが、責任を伴わないことが多いので、昔から悩みの種でした。
江戸時代の目安箱でも、匿名の訴えは、取り上げられることはありませんでした。
まあ、確かめようもないから仕方ありません。
ところで、無責任に社会を騒がす人たちは、どんな育ちをしたのでしょう?
良いも悪いも
以前、人間は上書きされながら成長をするという話をしました。
誰にでも、後悔する過去や今となって気づく間違いはあるでしょう。
元薬師寺管主高田好胤は、次のように諭されています。
いまの時代は個性尊重とよくいわれます。
生れたものをそのまま伸ばしてあげるのが、なによりもの個性尊重だというのですが、本当にそうでしょうか?
生れたものをそのまま放置し、訓練もトレーニングもしないのが、果して個性尊重でしょうか?
訓練なきところに個性はなく、それは単なる野性にすぎません。
いうなれば原石です。
生れ持って来た個性を訓練し、トレーニングすることによってそれは磨かれ、よき個性として輝くのです。
持って生れた個性がいいものだけならともかく、悪い個性も一緒に持って生れるのが私たちなのです。
個性には伸ばしてあげなければならない個性もあれば、摘み取らなければならない個性もあることを知っておくべきです。
それを選別し、うまく剪定してあげるのが親や先生の勤めであり、躾や教育です。
個性と野性を混同してはいけません。
もしかしたら、成長段階の間違いは、惡い芽を積まずにほったらかしてしまった結果かもしれません。
小さな芽のうちは、
「痛いけど、歯を食いしばって!すぐに終わるから。」
で片付きますが、芽が育って幹のようになってしまうと、芽を摘まれる方も痛くてたまったものではありません。
そして、摘む方も、とてもそんな体力は残っていません。
ですから、早いうちに働きかけてあげるのが愛情なのです。
これは特に、子育てで考えるべきことです。
大人になると、詳しい理屈や説明が必要になり、納得させるのが難しくなりますから。
だからと言って、子供の個性を殺すような体罰は、絶対に許せませんが。
では、どうやって心を育めばいいのでしょう?
代掻き(しろかき 田んぼをドロドロにする)
以前、名古屋で悲惨な女子生徒コンクリート事件がありました。
ところが、逮捕された少年グループに、いくら刑務官が諭しても、聞く耳を持たず、全く改悛の意を見せなかったのです。
そこで、大人達がとった方法は本を読ませることだったと記憶しています。
はじめは、本に対して見向きもしなかった少年達が次第に本を読むようになると、入っていかなかった言葉が沁みていったようです。
そして時折、涙を流し、自分たちのしたことを悔いる様子も見られたそうです。
悪いことや理解させたいことを熱く語ったとしても、心が育っていない時は、田んぼで言えば、カチカチの状態で苗が刺さらないのと同じです。
まず鍬を入れて、本人さえ気づかなかった根っこを引き出したり、隠れて成長を邪魔する大きな石を除いたりして、雑草(悪さ)の根を断ち切ること(田おこし)が大切です。
そして、水を入れてドロドロの状態までして苗(教え)を迎える準備が整います。
SNSで嘘をつくことを責めるだけならば、カチカチの硬い田んぼに苗(教え)を植えるのと同じになってしまいます。
だからこそ、大人は発想を変えなければなりません。
考え方をリセットすれば、悪い気持ちが掘り起こされたり、感じ方や考え方に変化が起こり、やっと苗(教え)が入っていくのだと思います。
しかし、この作業はなかなか力のいる仕事です。
さて、前述の名古屋の少年達の話。
後悔をして、人生そのものをしっかりやり直せていたら美談なのですが、ほとんどの少年は暴力団に入ったり、再犯を繰り返したりと、自分の人生を台無しにしています。
つまり、彼らの田おこしや代掻きは、間に合わなかったし、その範囲も狭かったのでしょう。
やっぱり、人生を決めていくのは幼児期の気がしてなりません。
そう言えば、英語の格言で「muddle through」と言うのがあります。
意味は、「泥の中を這いつくばって通り抜ける」、「先行きが見えない中、藻掻きながらも困難に立ち向かう」だったと思います。
我々大人は、たとえ報われなくても、協力して子供たちとmuddle throughをしていきましょう。
みんなでドロンコ大会みたいに協力して、励ましながらやろうではありませんか。
それが大人の代掻きです。
今回はここまでにします。
次回をお楽しみに。
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