脳腫瘍の位置や大きさは地元の病院でも大体わかっていたのですが、最新治療では、もっと正確に敵を炙(あぶ)り出します。
孫子の兵法ではありませんが、「彼を知り己を知れば百戦殆(あや)うからず」が基本です。
やっつける相手のことや自分の実力が、よくわからないで戦いを始めてしまえば、勝敗が運任せになります。
情報が少ない中での治療は危険です。
ビジネスで、マーケティングなしで漠然とした顧客を期待し、貸借対照表で自分の体力を見極めずに勝負して大失敗するのと同じです。
腫瘍を炙り出す
腫瘍は、脳内のどこかに隠れていて、逃げ隠れしているわけではありませんが、正確に捉えて、やっつけないと治療も延びます。
そのために、
- 太腿から、管を入れて、脳腫瘍部分近くまで通す。
- 画像がよく出るように造影剤を数度放つ。
ことが必要です。
しかし、心配です。
いくら、全身の血管がつながっているからと言って、狙ったところまで正確に管を届かせることが簡単だとは思えなかったからです。
しかし、それは杞憂でした。
造影剤を放つタイミングで、私は腫瘍があると言われている場所(後頭部)に圧力や熱さを感じたのです。
すごい技術です。
チーム医療のメンバーの実力を頼もしく思いました。
脳腫瘍の正体と摘出方法
腫瘍の正体が分かりました。
脳腫瘍と言うと、コロッとした塊(かたまり)を想像しますが、実際は違いました。
大きさはゴルフボール程度、形は歪(いびつ)で、何本もの根が組織を這うように伸びています。
手術では、取り方が問題です。
全部取るのか?一部残すのか?
普通、全部取るのが良いに決まっていると思いますが、そう簡単ではありません。
イメージとしては、剥ぎ取る感じです。
脳の神経はデリケートに張り巡らせれてますから、剥ぎ取る時に、大切なものまで取れてしまうと大変です。
中には呼吸などの生命維持を司っている場所もあるからです。
大変なことにならないようにある程度は取って、微妙なところは放射線治療になるらいしいのですが、私の主治医は、慎重に全摘出をすると言ってくれました。
凄腕です。
いざ手術へ
主治医も手術の方針を示してくれましたし、リスクもわかりました。
最新の診断機器で、腫瘍の根も含めて全体像が3D画像で確認できました。
さらに、大出血した場合に、塞ぐ血管の場所まで教えてもらいました。
上手に取れなかったり、後遺症が残ったりすることも想像はできますが、あとは運を天に任せるしかありません。
朝一番で、手術室に運ばれました。
麻酔医の話しかけている声が遠くなっていきまます。
すごい頭痛で目が覚めたのは、16時間後。
しかも、病室ではなく、集中治療室のようなところ。
その場所さえも、分かりません。
頭はガンガンと鳴っているし、締め付けられている感じが半端ではありませんでした。
意識は朦朧とし、視点も定まりません。
眠れるわけなどありません。
ひどい痛さです。
切り取って戻した頭蓋骨の部分は血液の拍動とともにとても大きな塊の痛さが行き交いますし、何かに締め付けられる痛さは強烈な「げんこつグリグリ」の痛さです。
2日後に頭をぐるりと巻いてあった金具を外したのですが、その金具の締め付け部分が、頭にめり込んでしました。
誰が、こんなに締め付けたのかは分かりません。
多分、大きく切り取った頭蓋骨をはめ直す時に、しっかり固定させたい思いがあったのでしょう。
しかし、あまりの念の入れ様です。
この締め付けていた金具を取り外すと、途端に強烈な痛さから解放されました。
「やっと、戦いが終わった。」
と思いましたが、戦いは始まったばかりでした。
続きはまた次回。
続きはこちらから
始めから読む方はこちら
前回を読まれる方はこちら