リーダーに必要な力

リーダーに必要な力(30) 思い出のリーダー1

20年も前のことです。

私の住む地区では、40歳の厄年になると地域の神社のお神輿(みこし)を担いで練り歩く行事があります。

そこに、少しお腹が出たり、白髪の混じったりした中学校卒業以来の同級生が集まるのです。

早朝、海で禊(みそぎ)をし、神社の神殿から神様をお神輿に迎えます。

履き慣れない足袋(たび)、初めての褌(ふんどし)、白い法被をまとい、大きな掛け声と共に神輿を担ぎ上げます。

一旦担ぎ上げたら、地面には落とせません。

皆で必死に、担ぎ続けます。

私は身長が高い方なので、神輿の重みがずっしりと肩に食い込みます。

隣を見ると掛け声は元気が良いけど、肩より高いところに神輿の棒があります。

全く担いでない輩も中に入るのです。

まあ、神事ですから、それなりのご利益になるだろうと文句も言いませんが、次第に肩が痛くなり、腰までおかしくなります。

この練り歩きの行程はよく考えられたもので、ちょうど疲れた頃に御旅所での休憩ができます。

そこでは、おにぎりやお茶、ビールなども振る舞われ、一息つけます。

ですから、

「今度の休憩では、仲間に担ぐ役を代わってもらおう」

と思っていても、再び担ぐ気持ちが出ますので、結構担ぎ続けられます。

また練り歩く中で、仲間に水をかけてもらって、熱くなった体を冷やします。

しかし、日に照らされ、水を浴びた顔は火傷状態に近づきます。

初めは白かった仲間の顔は真っ赤に、元々色黒な私などは赤黒くなるのです。

本当に痛かった。辛かった。

そんな地域に伝わる行事の担い手として役目を果たし、自宅に帰った時に、それは起こりました。

勝手口から

汗びっしょりの法被を脱ぎ、褌を外し、冷たいシャワーを浴びると、やっと1日の終わりを迎えました。

本当に疲れてしまって、足はフラフラでした。

夕陽が落ちそうな時、勝手口をトントンと叩く音が聞こえます。

誰だろうこんな時間にと思いながら開けると、ビールを1ケース抱えた校長が立っているではありませんか。

「今日は、ご苦労さん。あなたが懸命に担いでいる姿を見て、喉を潤して欲しくてビールを持ってきました。いつも私を助けてくれているあなたに、今日はお礼が言えるいい機会です。」

と冷えたビールをくださいました。

当時は、確かに多忙を極めていましたが、多望でもありました。

それは、この校長が私を信じて任せてくれる場面が多かったからです。

もちろん、仕事上の上下関係や信頼関係と私生活は別物です。

しかし、校長がどんな想いでビールを買い、裏口をノックしたかを考えると心が震えました。

 

今でも思い出します。

自分の想定を超えたリーダーの思いやりは20年の時を超えても鮮やかです。

 

今の私は単なる批評家で、ビールを運ぶことはできていません。

本当のリーダーは時を超えてもリーダーです。

 

今回はここまでにします。

次回をお楽しみに。

次回はこちら

リーダーに必要な力(31) 思い出のリーダー2前編教員の世界は、40歳前後に行政職に転ずるかを考える機会があります。 私もその年頃に1つの学校ではなく、すべての学校に関わる仕事に興...

前回はこちら

リーダーに必要な力(29) 慮(おもんばか)る力暦が土曜日(令和4年1月22日)に変わった頃、九州東部で震度5強の地震がありました。 南海トラフの大地震が早晩来ると言われている中...

COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA