20年も前のことです。
私の住む地区では、40歳の厄年になると地域の神社のお神輿(みこし)を担いで練り歩く行事があります。
そこに、少しお腹が出たり、白髪の混じったりした中学校卒業以来の同級生が集まるのです。
早朝、海で禊(みそぎ)をし、神社の神殿から神様をお神輿に迎えます。
履き慣れない足袋(たび)、初めての褌(ふんどし)、白い法被をまとい、大きな掛け声と共に神輿を担ぎ上げます。
一旦担ぎ上げたら、地面には落とせません。
皆で必死に、担ぎ続けます。
私は身長が高い方なので、神輿の重みがずっしりと肩に食い込みます。
隣を見ると掛け声は元気が良いけど、肩より高いところに神輿の棒があります。
全く担いでない輩も中に入るのです。
まあ、神事ですから、それなりのご利益になるだろうと文句も言いませんが、次第に肩が痛くなり、腰までおかしくなります。
この練り歩きの行程はよく考えられたもので、ちょうど疲れた頃に御旅所での休憩ができます。
そこでは、おにぎりやお茶、ビールなども振る舞われ、一息つけます。
ですから、
「今度の休憩では、仲間に担ぐ役を代わってもらおう」
と思っていても、再び担ぐ気持ちが出ますので、結構担ぎ続けられます。
また練り歩く中で、仲間に水をかけてもらって、熱くなった体を冷やします。
しかし、日に照らされ、水を浴びた顔は火傷状態に近づきます。
初めは白かった仲間の顔は真っ赤に、元々色黒な私などは赤黒くなるのです。
本当に痛かった。辛かった。
そんな地域に伝わる行事の担い手として役目を果たし、自宅に帰った時に、それは起こりました。
勝手口から
汗びっしょりの法被を脱ぎ、褌を外し、冷たいシャワーを浴びると、やっと1日の終わりを迎えました。
本当に疲れてしまって、足はフラフラでした。
夕陽が落ちそうな時、勝手口をトントンと叩く音が聞こえます。
誰だろうこんな時間にと思いながら開けると、ビールを1ケース抱えた校長が立っているではありませんか。
「今日は、ご苦労さん。あなたが懸命に担いでいる姿を見て、喉を潤して欲しくてビールを持ってきました。いつも私を助けてくれているあなたに、今日はお礼が言えるいい機会です。」
と冷えたビールをくださいました。
当時は、確かに多忙を極めていましたが、多望でもありました。
それは、この校長が私を信じて任せてくれる場面が多かったからです。
もちろん、仕事上の上下関係や信頼関係と私生活は別物です。
しかし、校長がどんな想いでビールを買い、裏口をノックしたかを考えると心が震えました。
今でも思い出します。
自分の想定を超えたリーダーの思いやりは20年の時を超えても鮮やかです。
今の私は単なる批評家で、ビールを運ぶことはできていません。
本当のリーダーは時を超えてもリーダーです。
今回はここまでにします。
次回をお楽しみに。
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